転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


106 自己紹介と魔法披露



「さて、これで何時でもここに来られる訳だし、あんまり遅くなるとシーラが心配するからそろそろ帰るか」

「うん!」

 お父さんに言われた通り転移の印はつけ終わったんだから村に帰ろうって思ったんだけど、

「いやいや、まだ帰ってもらっては困る」

 ロルフさんに止められちゃったんだ。

「なんで? これでもう何時でも来られるようになったんだから、帰っていいんでしょ?」

 でもなんで止めたのかが解らなかった僕はロルフさんにそう聞いたんだ。そしたら僕の事をこのお家の人たちに話しておかないと、次に来た時にみんながびっくりしちゃうって言われたんだ。

 そう言えばそうだよね。

 このお家に居ないはずの僕が、いきなり部屋の中から出てきたらびっくりしちゃうもん。
 ロルフさんがこのお家に住んでるのならいいんだけど、普段はイーノックカウの中にあるお家に居るみたいだから僕の事をこのお家の人たちにちゃんとお話しておかないといけないね。

 あっ、でも。

「ロルフさん。ジャンプの事は話しちゃいけないんだよね? ならお家の人にどう言うつもりなの?」

「おお、その事なんじゃが、この館の者にだけは話そうと思っておるのじゃ」

「えっ、いいの? さっき誰にも話しちゃダメって言ってたじゃないか」

「うむ。この館以外では話すべきでない」

 えっと……それって、秘密のはずなのに、ここでなら話してもいいて事なの? そう不思議に思ったんだけど、ロルフさんが言うにはいいんだってさ。

「ルディーン君のお父さんも、ジャンプの魔法の事を知っておるじゃろ。それに家に帰ったらお母さんや兄弟にも話すのではないかな? それと同じじゃよ。この館の者たちは、わしの家族同然。そのものたちなら知られても問題はあるまい?」

「そっか、家族だからいいのか」

 そうだよね。お母さんはいつも僕に家族には秘密を作ったらダメだよって言ってるし、ロルフさんの家族ならいいのか。

「うむ。それに先ほども言った通り、教えておかねばルディーン君がこの館を訪れた時、皆が困ってしまうじゃろ? じゃからきちんと説明しておかねばならんのじゃよ」

「そう言えばそっか」

 これから何度もここにジャンプの魔法で飛んでくるんだから、このお家の人が知らなかったら困っちゃうもんね。

 と言う訳でロルフさんは隣にいたローランドさんに、このお家にいる人たちを呼びに言ってもらったんだ。


 そして数分後。

「失礼します。旦那様、皆を連れてまいりました」

「うむ。ご苦労」

 僕たちが待っている部屋には、さっき玄関で並んでたメイドさんたちやローランドさんと同じような服を着た人たちが入ってきた。

「このお家、大きいなぁって思ってたけど、こんなにいっぱい人が居たんだね」

「いやいやこれだけでは無いぞ。この他にも色々な仕事をしておる者たちもこの館にはおるのじゃが、今ローランドが連れて来たのはこの館の中で働く物たちの中でも特に信用が置けるものたちだけなんじゃよ」

 ロルフさんが言うには、僕がジャンプの魔法を使える事は他の人には絶対秘密だから、このお家にいる人だからと言って誰にでも教えていいって訳じゃないらしいんだけど、この人たちなら信用できるから集まってもらったんだってさ。

「しかし、全員に挨拶させると時間が掛かりすぎるのぉ。ローランド、ライラ。皆を代表して自己紹介せよ」

「では私から。ランヴァ(ゴホン)……失礼いたしました。ロルフ様の執事をいたしております、ローランド・キャンベルと申します。以後お見知りおきを」

 そう言うとローランドさん改めキャンベルさんは、僕とお父さんに向かって綺麗なお辞儀をしてくれたんだ。
 だから僕とお父さんは慌てて挨拶をしようとしたんだけど、

「まだ挨拶が終わっていませんから、お二人の挨拶はその後で」

 そうバーリマンさんに止められちゃった。

 そっか。挨拶は一度すればみんな解るんだし、何度もされたって困っちゃうだけだもんね。
 と言う訳で、僕とお父さんは改めてキャンベルさんたちの方に目を向けた。

 すると、キャンベルさんの横にいた優しそうな笑顔のメイドさんが一歩前に出て、僕たちに挨拶してくれたんだ。

「わたくしはこの館のメイド長を任されております、ライラ・ストールと申します。主人であるロルフだけでなく、ローランドも普段はこの館に居りませんから、ルディーン様が此方に御出でになられる時は、わたくしが対応いたしますので、以後お見知りおきを」

 ストールさんの挨拶を聞いて。僕とお父さんはびっくりして固まっちゃったんだ。だって、ルディーン様なんて言われちゃったんだもん。僕たちの住んでる村で様なんて付けられるのは司祭様くらいだから、どうしたらいいのか解んなくなっちゃったんだ。

 そして、そんな僕たちを見て困ってしまったのはキャンベルさんとストールさんだ。

 それはそうだよね。だって自分たちの挨拶は終わったのに、僕たちは何の反応もしないんだもん。
 だから二人はどうしたらいいのかって言う視線を、ロルフさんに向けたんだ。

 そしてそのロルフさんはと言うと、ちょっと困った顔をしてバーリマンさんにこんな問いかけをしたんだ。

「ふむ。ギルマスよ、何か二人の自己紹介に不備があったかのぉ?」

「そうですねぇ。自己紹介自体には何の不備も問題点もなかったと思いますわ」

 それに対して、バーリマンさんは微笑みながら特に問題はなかったと答えたんだ。

 でもそうなると、今の状況に説明が付かないんだよね。

「わしもそのように思うのじゃが、では何故二人はああして固まってしまったのじゃろう?」

「お二人は、ルディーン君の事を様付けで呼んだのに驚いているのではないでしょうか? その瞬間から固まってように動かなくなりましたから」

「おお、なるほど。そう言えばルディーン君たちは敬称に様をつける事は無いじゃろう。それで驚いてしまったと言うわけか」

「はい。ですから、ストールさんだけでなく、この館の者たちにルディーン君の事を様付けで呼ばないように指導するべきでしょう。毎回毎回、このように固まられては困ってしまいますからね」

「確かに」

 とまぁこんな感じで、僕たちが固まっている間にこのお家での僕の呼び方が決まってしまったんだ。


「ハンス・カールフェルトです。こいつは息子のルディーン。これから何度か此方でお世話になると思いますので、よろしくお願いします」

「ルディーン・カールフェルトです。8歳です。よろしくお願いします」

 さて、しばらくして硬直が解けた僕とお父さんは慌てて自己紹介。そしてそれが済むと、少し興奮気味にロルフさんとバーリマンさんがこんな事を言い出したんだ。

「ルディーン君。口で説明しても皆にうまく伝わるかどうか解らぬからのぉ。すまんがジャンプの魔法を実践して見せてはもらえぬか? そうすればこれから先、君がこの館に突然現れてもみなが驚く事はなくなるじゃろうからのぉ」

「ええ、そうですわね。伯爵が仰る通り、実際に見ていただくのが宜しいでしょう。口だけでは伝わらない可能性がありますしね」

 えっと……何か二人とも目が怖いんだけど。

 でもそうだね。次から来る時はジャンプって魔法で飛んで来るんだよって言われても魔法を使えない人には何の事か解んないだろうし、街に来る前、お父さんに見せた時みたいにやって見せた方が解りやすいね。

「うん、解ったよ。じゃあやって見せるから、部屋の真ん中を空けてね」

 そう思った僕は早速ジャンプの魔法を使って見せようって思ったんだけど、ロルフさんたちからストップが掛かったんだ。

「いやいや、ちょっと待ってくれないかルディーン君。君がこの部屋の中で魔法を使っても、皆が良く理解せぬかもしれん。じゃから、いとど移動して……そうじゃな、扉の外に出て通路から飛んで見せてはもらえるか?」

「そうですね。こんな近くては何が起こったのか、理解できない者も出るでしょう。ルディーン君、そうしてもらえるかしら?」

 なるほど。言われて見ると確かにここからジャンプの魔法を使ってもほんのちょっとしか移動しないし、まばたきとかしてたら歩いて移動しただけって思う人も出てくるかもしれないね。

 そう思った僕は、

「うん、わかった。じゃあお部屋の外から飛ぶね」

 そう言いながらメイドさんが開けてくれたドアを通って廊下へ出たんだ。

「じゃあ行くよ!」

「うむ。よろしく頼む」

 そしてそこからロルフさんに声をかけた後、体に魔力を循環させて、

「ジャンプ!」

 魔法の呪文を唱えて目の前に開いた選択肢からロルフさんのお家の部屋を選ぶと、僕の視界が一瞬にして廊下からみんながいるお部屋の中に変わる。

「おお、本当に転移をしてきたぞ。うむ、めでたい。ギルマスよ、我等は歴史的な一瞬に立ち会えたのじゃ」

「そうですね、伯爵。ああ、まさかこんな日が来るなんて」

 そんな僕を見て大げさに喜ぶロルフさんたち。そして、

「…………」

 あれ? ロルフさん、ちゃんと説明してなかったの?

 それとは対照的に、さっきの僕とお父さんみたいに固まってしまって、声も出ないキャンベルさんたちの姿があったんだ。


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